大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和50年(オ)418号 判決

上告人

飛島通二

右訴訟代理人

馬渕分也

被上告人

荒木正男

外一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人馬渕分也の上告理由について

仮処分債権者(担保提供者)の申立によつてなされる権利行使の催告は、仮処分のため供託した保証につき、訴訟の完結後担保取消決定を得る前提として、右申立により、裁判所が、担保権利者たる仮処分債務者に対しその被担保債権である当該仮処分による損害賠償債権について裁判上確定をはかる手続を現実にとるべき旨を催告するにすぎないものであつて、右申立をもつて直ちに仮処分債権者が本案訴訟及び仮処分を不法行為とする損害賠償債務を承認し、あるいは、同債務の消滅時効の利益を放棄する旨の意思表示をしたものと解することはできない。したがつて、これと同旨の見解のもとに、被上告人荒木が時効の利益を放棄したとの上告人の主張を排斥した原審の認定判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない、所論中、違憲をいう部分は、その前提を欠き、失当である。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(岡原昌男 大塚喜一郎 吉田豊 本林譲)

上告代理人馬淵分也の上告理由

本訴発生の法律事実の摘出

一、本訴は請求原因第二項(5)米子簡易裁判所昭和四六年(サ)第三九五号申立人(本訴被告)荒木正男より被申立人(本訴原告)とせる担保取消申立事件による催告の件に付米子簡易裁判所は申立人の申立を理由ありと認め申立人供託金の保証権利者としての権利の行使をせよとの催告書(甲第二号証及び同第二五号証)で申立人成立を認めたものであります。

二、被申立人は法定期日内に申立人並に佐田寿男に対し回答並に通告書を以て損害金四拾万円を連帯支払えと期限を定めて催告し期限内支払わないので法定期日内に鳥取地方裁判所米子支部え被告両名を相手取り損害賠償請求訴訟を提起した。

三、この申立人の担保取消のためにする被申立人えの権利行使を催告方申立て裁判所は理由ありと認めて一四日以内に保証権利者として権利の行使を催告せられたのは被申立人が供託金に対する損害賠償請求権の存在を前置条件として申立人が申請し裁判所の裁判となつたものであります。

四、若し然らずして申立人が申立時点において被申立人の権利が本訴における被告代理人主張の如く時効により消滅せるものと主張するなれば裁判所の催告を待つまでもなく担保取消決定申立時において時効消滅を主張して取消決定を求めることが申請人の意思と行為の一貫性あるものでありましよう然らずして催告時点では権利存在を主張して裁判上の催告を求めながら催告に応じた相手方の損害賠償請求訴訟に至つて時効消滅を主張すること自体自己の権利行使方法に前後矛盾一貫性ないのみならず被告の行為は裁判所を偽罔して催告なる裁判を求めた不法行為であります。

第一点 原審判決は採証法則に違背し民訴法第三九五条一項六号該当の不法があります。

原審判決は甲第二号証及び同第二五号証なる米子簡易裁判所の催告書は当事書間に争のない公文書――裁判書であります同書の被申立人えの保証権利者としての権利の行使を認めたことが法律事実に反する点につき一言の理由をも付せず唯単に一概に本訴上の被告代理人の時効消滅のみによる偏信的判断は理由不備の違法があります。

第二点 原審判決は日本国憲法第三二条に違反せる理由に基づく同法第八一条の違憲決定を求めます。

憲法第三二条は「裁判所において裁判を受ける権利」を認めたからは上告人は原審において米子簡易裁判所の昭和四六年(サ)第三九五号なる裁判に基づき本訴を申立てたこの裁判請求権行使を不法にしりぞけて判断しない原審判決は裁判受権の阻止行為に該当するから違憲決定を求めます。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例